研究

共鳴的に相互作用する冷却原子気体の普遍的な性質

背景: 冷却原子気体と普遍性

レーザー冷却等を用いてマイクロ・ケルビン~ナノ・ケルビンに冷却された中性原子の気体を冷却原子気体と呼びます。冷却原子気体の特長は、実効的な原子間相互作用の強さをはじめ、粒子数、粒子の統計性、次元性等、様々なパラメータを自由に制御可能である点です。このような特長を利用して、ボース・アインシュタイン凝縮、BCS-BECクロスオーバー等の現象が実験的に実現されてきた。

量子多体系として見ると、冷却原子気体は希薄・低温極限における普遍性を体現した系であると言えます。これはどういう意味でしょうか。原子気体は、1原子レベルで既に電子の軌道・スピン状態や核スピン状態で決まる複雑な構造を持っています。2原子レベルでは、長距離ではファン・デル・ワールス相互作用、短距離では斥力芯を持つ複雑な原子間相互作用が働きます。このような複雑な構造の典型的な長さスケールを \(r_\mathrm{int}\) とします。この他に、冷却原子気体を特徴づける典型的な長さスケールには、平均粒子間距離 \(d\) や熱的ド・ブロイ長 \(\lambda_T\) があります。冷却原子気体ではこれらの長さスケールの間に、 \[ d , \lambda_T \gg r_\mathrm{int} \] という関係が成り立ちます。直感的には、波動関数の典型的な波長(左辺)が原子間相互作用の長さ(右辺)よりも長いので、系の性質が原子間相互作用の詳細な構造に依らないことが期待されます。これが段落冒頭の1文の意味です。

共鳴領域における「普遍的な関係式」

特に私達が興味を持っているのは、原子間相互作用が実効的に非常に強い共鳴領域における普遍的な性質です。定量的には、低エネルギー散乱の断面積を特徴づける散乱長 \(a\) という長さパラメータを用いると、 \[ a \gtrsim d \sim \lambda \gg r_\mathrm{int} \] が成り立つ領域のことです。先行研究(S. Tan, Ann. Phys., 2008)において、BCS-BECクロスオーバーのユニタリ領域において、「短距離・短時間の領域に異常に大きな相関が生じ、それら短距離相関によってマクロな性質(例えば熱力学)までもが決定される」ことが指摘されました。いわば、短距離と長距離を結びつける普遍的な関係式です。この普遍的な関係式は、温度、粒子数、超流動相か常流動相か等によらず、非常に一般的に成り立つことも特長です。その後、\(s\)波相互作用する低次元系やボソン系にもこれらの関係式が拡張され、共鳴的に\(s\)波相互作用する希薄気体の基本的な性質として、その地位を確立してきました。

私達は、\(p\)波相互作用するスピンレス・フェルミ気体に対して、同様の普遍的な関係式が存在することを示しました。この仕事の意義は、普遍的な関係式が成り立つ背景にあるのは低エネルギーにおける少数多体問題の普遍性であり、\(s\)波相互作用である必要はないことを示したこと、言い換えると、より多くのuniversality classが存在しうることを示したことにあります。実際、私達の論文の後に、異なるタイプの相互作用に対して普遍的な関係式が議論されはじめています。また、私達は、\(p\)波相互作用の持つ異方性が普遍的な関係式の中で果たす役割について詳細な議論を行いました。系の形状や超流動相のタイプ等で決まるマクロな異方性によって、短距離相関というミクロな異方性が影響を受けることを示し、そのような場合にも成り立つように普遍的な関係式を一般化しました。

  1. S.M.Y. and M. Ueda, "Universal High-Momentum Asymptote and Thermodynamic Relations in a Spinless Fermi Gas with a Resonant p-Wave Interaction", Phys. Rev. Lett. 115, 135303 (2015).
  2. S.M.Y and M. Ueda, "p-wave contact tensor: Universal properties of axisymmetry-broken p-wave Fermi gases", Phys. Rev. A 94, 033611 (2016).